マーケティングが進まない中小企業の最大の原因は、施策の数でも予算でもなく、「最初の1つ」が決まっていないことです。 「何から手をつければいいか分からない」「施策を増やしたが成果に繋がらない」と止まっている経営者・担当者の方に向けて書いています。 読み終えたとき、自社にとっての「最初の1つ」がその場で言語化できる状態を目指します。


マーケティングで最初に決めるべき「1つ」とは何か

マーケティングを始める時、もしくは立て直す時に、最初に決めるべきものは「施策」ではありません。「打ち手のリスト」でもありません。

決めるべきは、「90日後に何が起きていれば成功と言えるか」、たった1つの問いです。

この問いの答えが定まっていないまま、広告を出したり、SEOに取り組んだり、SNSを始めたりしても、施策は積み上がっていきません。「やった/やらない」の作業確認しか残らず、「効いた/効かない」の判定がつきません。判定がつかなければ、次の打ち手も決められません。

「90日後に何が起きていれば成功か」を1つに絞ると、自動的に決まることが3つあります。

  • 何を計測すべきか(=何を見れば成功・失敗を判定できるか)
  • 何に手をつけるべきか(=その結果に最も影響する施策は何か)
  • 何をやらないか(=その結果に関係しない施策は止める)

つまり、「最初の1つ」を決めるとは、優先順位を決めること、すなわち「やる施策」と「やめる施策」を同時に決めることです。マーケティングが進まない会社は、「やる施策」だけを増やしてきて、「やめる施策」を一度も決めていません。


なぜ「最初の1つ」が90日後の成果を分けるのか

「最初の1つ」が90日後を分ける、と言うと大袈裟に聞こえるかもしれません。ですが、現場で何度も見てきた構造です。順番に説明します。

マーケティングは複利で効く活動だから

マーケティングの成果は、複利で積み上がります。1ヶ月目で得たデータが、2ヶ月目の仮説の材料になり、2ヶ月目で得た学びが、3ヶ月目の打ち手の精度を上げる。この積み上げが回り始めた会社と、回らないままの会社で、半年後の差は数倍に開きます。

「最初の1つ」が定まっていない会社は、この複利が回り始めません。1ヶ月目に広告、2ヶ月目にSEO、3ヶ月目にSNS、と打ち手を変え続けるからです。それぞれの施策で得たデータは、互いに繋がりません。1ヶ月目の学びが、2ヶ月目の精度を上げない。これでは、いくら時間をかけても複利は効きません。

中小企業のリソースは「1つに集中」で初めて効くから

大企業なら、複数の施策を並列で走らせるリソースがあります。広告チームと、コンテンツチームと、SNSチームが、それぞれ独立して成果を出せます。

中小企業のマーケティングリソースは、人で言えば1〜3人、予算で言えば年間数百万円から多くて数千万円です。この規模で複数施策を並列に走らせると、どの施策も中途半端になります。結果、どれも成果に届かず、「マーケティングは難しい」で終わります。中小企業の打ち手は、「1つに集中して、そこで成果を出してから、次に広げる」が原則です。

「最初の1つ」が、社内の意思決定の軸になるから

これも重要です。「最初の1つ」が決まっていない会社では、社内で打ち手の優先順位がぶれます。営業部長は広告を増やしたい、社長はSEOを始めたい、現場担当者はSNS運用を立ち上げたい。それぞれが正論ですが、リソースが分散して、どれも進まない。

「最初の1つ」が言語化されていれば、すべての打ち手をその1つに照らして判断できます。「この施策は最初の1つに貢献するか?」「貢献しないなら、なぜ今やるのか?」と問えるようになります。社内の合意形成が、ぐっと楽になります。


中小企業が最初に決めるべき1つの問い

「90日後に何が起きていれば成功か」をどう定義するか、というのが本題です。中小企業の現場で機能する整理を紹介します。

「最初の1つ」は3つの観点で記述する

1つの問いを、次の3つの観点で言語化してください。

  1. 数字の指標:何の数字が、どこからどこまで動いたら成功か
  2. 時間の単位:90日後の何月何日時点で測るか
  3. 判定の条件:成功・失敗・引き分けをどう線引きするか

例で言えば、こうなります。

「90日後の○月○日までに、月間の問い合わせ数が現状の月5件から月15件に増えていれば成功とする。月10件以下なら失敗、月11〜14件なら引き分けとして次サイクルで再判定する」

漠然と「問い合わせを増やしたい」では、最初の1つになりません。「いつまでに」「どの数字が」「どこまで動けば」を言葉にして、初めて使える指標になります。

「最初の1つ」を選ぶ3つの基準

複数の候補がある場合、次の3つの基準で選んでください。

  • 事業のボトルネックに直結しているか:売上を増やしたい場合、流入(集客)・転換(LP・接客)・継続(リピート)のどこが詰まっているか。詰まっている1点を選ぶ
  • 90日で動かせる現実性があるか:広告のCV数は3ヶ月で動かせます。ブランド認知は3ヶ月では動きません。90日で測れる指標を選ぶ
  • 社内で1人以上が担える体制があるか:担う人がいない指標は、書いただけで動きません。担当者を決められる範囲で選ぶ

ボトルネック・現実性・担当の3つが揃った1つが、その会社の「最初の1つ」です。


「最初の1つ」を決める3ステップ

漠然と考えても出てきません。次の3ステップで、その場で言語化してください。

Step 1: 現状の数字を1枚に書き出す

過去3〜6ヶ月の数字を、1枚のシートに並べてください。最低限、次の4つを書きます。

  • 月間サイト訪問数(GA4の総セッション数)
  • 月間問い合わせ数(GA4のCV数または問い合わせフォームの送信数)
  • 月間商談数(問い合わせの中で実際に商談まで進んだ件数)
  • 月間契約数(商談の中で受注に至った件数)

この4つを並べると、自社のファネル(流入→問合せ→商談→契約)の歩留まりが見えます。どの段階で人が「漏れて」いるか、数字で分かります。

Step 2: 漏れの最大箇所を1つ特定する

ファネルを見ると、どこかに「漏れが多い1箇所」があります。中小企業の現場で多いパターンは、次の3つです。

  • 流入が足りない:訪問数が月100以下、もしくはターゲットでない訪問が多い
  • 転換しない:訪問は来るが、問い合わせフォームに辿り着かない、または辿り着いても送信しない
  • 商談化しない:問い合わせは来るが、商談に進まない、もしくは商談で離脱する

3つ全部が悪い場合もあります。ですが、相対的に最も漏れている1箇所を選んでください。3つ並列で改善しようとせず、1つに絞るのが原則です。

Step 3: その1箇所を改善する90日目標を書く

選んだ1箇所に対して、90日後の目標を「いつまでに、何が、どこまで動けば成功か」の形で言語化します。

例えば、「転換しない」を選んだ場合、目標は次のようになります。

「90日後の○月○日までに、LPのCVR(訪問→問い合わせの率)を現状の0.5%から1.5%に上げる。1.0%以下なら失敗、1.0〜1.4%なら引き分け」

ここまで書ければ、「最初の1つ」は決まりです。次は、この1つを行動に落とすフェーズです。


決めた1つを行動に落とす:90日改善計画への接続

「最初の1つ」が決まっただけでは、現場は動きません。これを90日の行動計画に落として、初めて回り始めます。

テマヒマでは、この行動計画を「90日改善計画(BUILD/UP)」というフレームで整理しています。90日を「土台を整える30日(BUILD)」と「数字を伸ばす60日(UP)」に分け、合計90日を1サイクルとして回す改善モデルです。

簡単に説明すると、次の流れです。

  • BUILD(1〜30日):選んだ「最初の1つ」を改善するための土台を整える(顧客理解・訴求・計測の設計)
  • UP-1(31〜60日):選んだ1つの施策に集中投入し、初動データを取る
  • UP-2(61〜90日):データから仮説を回し、改善を積み重ねる
  • Day 90:振り返りと、次の90日サイクルの計画

「最初の1つ」が起点で、「90日改善計画」がそれを動かす仕組みです。詳細は別記事(関連:90日改善計画の作り方)で扱っています。本記事で大事なのは、「最初の1つ」と「90日改善計画」をセットで動かす、という構図の理解です。


テマヒマ/平岡の視点

中小企業のマーケティング現場で、繰り返し見てきた現象があります。

進まない会社の経営者は、「うちは何から始めたらいいか分からない」と話します。話を聞いていくと、本当の問題は「何から始めたらいいか分からない」ではなく、「あれもやりたい、これもやりたいが、どれが先か決められない」であることがほとんどです。

つまり、施策のアイデアは持っているのです。何が足りていないかと言えば、「やる順番」と「やめる勇気」です。順番が決まらないから、複数を並列で走らせて、どれも中途半端になる。やめる勇気がないから、効いていない施策に予算が貼り続けられる。結果、リソースが分散して、何も成果に届かない。

「最初の1つ」を決めるとは、「やる順番」と「やめる勇気」を同時に整理する作業です。一度この1つが言語化されると、社内の会話が変わります。「次は何やる?」ではなく、「最初の1つに繋がる打ち手か?」が判断軸になります。これが、マーケティングを進める会社と進まない会社を分けます。

もう1つ、現場で繰り返し感じることがあります。「最初の1つ」を決めるのは、難しいことではありません。難しいのは、「決めた1つを変えずに90日走り切ること」です。途中で別の魅力的なアイデアが出てきます。社内から「これも追加しよう」という声が上がります。それを全部受け入れていると、決めた意味がなくなります。

「最初の1つ」を決めた後、90日間は変えない。これを社内ルールにできるかどうかが、最後の関門です。変えたくなった時の合言葉は、「これは次の90日でやる」です。捨てるのではなく、次のサイクルに持ち越す。これだけで、目の前の90日を集中して走れます。

「迷わせない」は、お客様向けの言葉だと思われがちですが、社内のマーケティング運用にも同じくらい効きます。社内の担当者を迷わせないために、「最初の1つ」を絞り込んでください。優先順位がはっきりしている組織は、必ず動きます。

「最初の1つ」を言葉にする作業は、半日もあれば終わります。にもかかわらず、そこに半日を使わずに走り始めて、90日後に「結局何が動いたのか分からない」となる会社が多い。逆に、最初の半日をきちんと「何が起きていれば成功か」の1行に使い切れば、その後の90日の意思決定はすべてその1行から逆算できます。「次に何やる?」と迷うたびに、「これは最初の1つに貢献するか?」と問えるようになる。1行が、社内のすべての判断軸になる。これが「最初の1つ」を言語化する本当の威力です。


「最初の1つ」を決めるときに陥りがちな罠

最後に、「最初の1つ」を決める場面で、よく見るつまずきを3つ共有します。

罠1: 「最初の1つ」が抽象的すぎる

「ブランド認知を上げる」「業界での存在感を作る」「お客様に愛される会社になる」――どれも素敵な目標ですが、これらは「最初の1つ」にはなりません。90日で動かせない、測れない指標だからです。

「最初の1つ」は、必ず数字と時間に紐付いた具体的な指標で書いてください。「90日後の○月○日までに、月間問い合わせ数を5件から15件に」のレベルまで具体化します。抽象的な目標は、3年計画には使えますが、90日サイクルには使えません。

罠2: 「最初の1つ」が複数になる

「問い合わせも増やしたいし、CVRも上げたいし、リピートも増やしたい」と、複数を「最初の1つ」にしてしまうケースです。

複数を最初の1つにすると、それは「最初の1つ」ではなく「全部やる」と同じです。中小企業のリソースで全部やろうとすると、どれも中途半端になります。「最初の1つ」を選ぶ、というのは、他の選択肢を「次のサイクルに送る」と覚悟することです。これを覚悟するのは確かに気持ち悪いですが、覚悟しない限り、90日サイクルは回りません。

罠3: 決めた1つを2週間で変える

90日サイクルが回り始めて2〜3週目で、別の魅力的な施策アイデアが出てくることがあります。新しい広告媒体、新しいツール、新しい代理店からの提案。

これを受け入れて、「最初の1つ」を途中で変えてしまうケースを、現場で何度も見てきました。気持ちは分かります。ですが、変えると複利が止まります。元の1つで積み上げてきた学びが、ゼロに戻ります。新しい1つでまた最初から積み上げる必要が出ます。

「2週間で変えるくらいなら、最初から決めない方がマシ」という気持ちで、90日は変えない覚悟を持ってください。変えていい場面は1つだけ、Day 30の振り返りで「BUILDの段階で前提が崩れた」と判断した場合だけです。それ以外の場面では、決めた1つを抱えて、最後まで走ってください。途中で出てきた新しいアイデアは、付箋に書いて「次の90日リスト」に貯めておく。捨てるのではなく、保留する。これだけで、目の前の90日に集中できます。


よくある質問(FAQ)

質問回答
Q1. 「最初の1つ」を決めるのに、どれくらい時間をかけるべきですか?半日から、長くて2日で決めてください。1週間以上かけるのは過剰です。完璧な1つを探すより、6〜7割の納得感で1つを決めて90日走り切る方が、学びが残ります。
Q2. 既に複数の施策が走っています。どうすればいいですか?既存施策を全部止める必要はありません。「最初の1つ」に最も貢献する施策を「主役」とし、それ以外は「維持運用」に切り替えてください。手を入れるリソースは主役だけに集中させます。
Q3. ボトルネックが3つ全部詰まっている場合、どう選びますか?「最も影響が大きく、最も動かしやすい1つ」を選んでください。動かしやすさは、内製で対応できるか・予算が小さく済むか・社内に経験者がいるか、で判断します。
Q4. 90日後に目標を達成できなかった場合、続けるべきですか?続けてください。1サイクルで成果が出ない場合でも、何が効かなかったかが明確になっていれば、次サイクルの精度が上がります。判断は3サイクル(9ヶ月)後でも遅くありません。
Q5. 「最初の1つ」を一人で決めても良いですか?経営者1人で決めることは可能ですが、必ず現場担当者と1回は議論してください。現場で動かす人が納得していない目標は、必ず途中で形骸化します。
Q6. テマヒマの戦略セッションでは「最初の1つ」を一緒に決められますか?はい。1回90分のセッションで、現状ファネルの整理・ボトルネックの特定・90日目標の言語化までを、その場で行います。

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著者情報

平岡 大輔

株式会社テマヒマ 代表取締役 / マーケGYM主宰

事業会社と支援会社の両方で、20年以上マーケティングの現場を経験。著書『売れるランディングページ改善の法則』など、現場で培った判断基準をもとに発信しています。

20年以上の実務経験 LP100本以上の制作・改善 事業会社・支援会社の両側を経験
平岡大輔

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