カスタマージャーニーマップを作っても、施策に繋がらず棚に置いてある事業者は本当に多いです。 ジャーニーを作ったが活用できていない、顧客接点ごとの改善ポイントを整理したい、と感じている担当者・経営者の方に向けて書いています。 本記事では、実務で使える描き方と、各接点の改善打ち手に繋げる手順を整理します。
カスタマージャーニーとは何か(定義)
カスタマージャーニーとは、顧客が商品・サービスを認知してから、購入、リピート、紹介に至るまでの「行動・感情・接点」の流れを可視化したものです。
「ジャーニーマップ」「カスタマージャーニーマップ」とも呼ばれます。1 枚のマップで顧客の動きを俯瞰することで、どの接点で改善が必要か、どこに新しい接点を作るべきかが見えてきます。GA4 のファネルが「数字の流れ」を可視化するなら、ジャーニーは「心の流れ」を可視化する道具です。
カスタマージャーニーの本来の目的は、「顧客視点で自社の接点を見直す」ことです。事業者目線では「広告→LP→問合せ→契約」の単純な流れに見えますが、顧客側では「広告を見て無視→数週間後に再度広告を見る→検索で調べる→競合と比較→社内で相談→問合せ→比較見積もり→契約」という複雑な行動を取ります。この複雑さを可視化するのが、ジャーニーマップの役割です。事業者の頭の中で単純化された世界と、現実の顧客の世界のギャップを埋める道具、とも言えます。
なぜカスタマージャーニーは「絵に描いた餅」になるのか
中小企業がジャーニーマップを作っても活用できないパターンを、3 つに整理します。
パターン 1: 「理想のジャーニー」を描いてしまう
事業者が「こうあってほしい」という理想を描いて、現実の顧客行動とズレています。理想のジャーニーは、施策の判断材料になりません。理想ではなく現実を描く、と最初に強く意識してください。
パターン 2: 接点だけ並べて「感情・課題」が空白
「広告 → LP → 問合せ → 商談 → 契約」と接点を並べて終わりにする。これでは GA4 のファネルレポートと同じです。ジャーニーマップの価値は「感情・課題」を可視化することにあります。数字には現れない、顧客の内面を捉えることが目的です。
パターン 3: 施策に繋がっていない
ジャーニーを描いた後、「どの接点を改善するか」「どんな打ち手を入れるか」に繋がっていない。マップを描いて満足してしまうケースです。「描くこと」と「使うこと」を別の作業として認識してください。
カスタマージャーニーの基本構造
ジャーニーマップは、横軸に「顧客のフェーズ」、縦軸に「行動・感情・接点・課題」を並べるのが基本です。
横軸:顧客のフェーズ
中小企業向けの BtoB 商材を例にすると、5 フェーズが一般的です。
- 認知: 自社の存在を初めて知る段階(ブランドや代表者の発信に触れる)
- 興味: 関心を持ち、情報を集め始める段階(サイト訪問・資料DL)
- 検討: 複数の選択肢を比較する段階(競合と比較・社内議論)
- 購入: 契約・購入の決断段階(商談・最終確認)
- 継続・推奨: 利用しながらリピート・紹介に至る段階
商材によっては、フェーズを 4 つや 6 つに調整します。例えば、即決商材なら「認知 → 興味 → 購入 → リピート」の 4 フェーズで十分です。検討期間が極めて長い商材なら、「認知 → 興味 → 課題顕在化 → 検討 → 比較 → 購入 → 継続」のような 7 フェーズに細分化することもあります。商材の検討プロセスに合わせて柔軟に設計してください。
縦軸:行動・感情・接点・課題
各フェーズで、次の 4 つを言語化します。
- 行動: 顧客が具体的に何をするか
- 感情: その時の気持ち・不安・期待
- 接点: どこで自社と出会うか(SNS・広告・検索・口コミ等)
- 課題: その段階での顧客の悩み・困りごと
- 打ち手: その課題を解消するために自社が打つ施策(任意)
この 4〜5 軸を 5 フェーズで埋めると、20〜25 マスのマップが完成します。これがカスタマージャーニーの基本フォーマットです。完璧を目指さず、まずは 20 マスを 1〜2 行ずつ埋めることから始めてください。
カスタマージャーニーの描き方:5ステップ
Step 1: ペルソナを 1 人選ぶ
ジャーニーを描く前に、ペルソナを決めます。「中小企業の経営者」のような集団ではなく、「45 歳・建材メーカー社長・年商 3 億」のような具体的な 1 人を選びます。ペルソナの解像度が低いと、ジャーニーも抽象的になります。
Step 2: 既存顧客にヒアリングする
ペルソナに該当する既存顧客 3〜5 人にヒアリングし、各フェーズでの行動・感情・接点・課題を聞き出します。事業者の想像で描くと、現実とズレます。「お客様の言葉」をマップに反映する習慣を、最初から作り込んでください。
Step 3: 共通パターンを 5 フェーズで整理する
ヒアリングから見えた共通パターンを、5 フェーズに振り分けます。「ある人は SNS で見つけた」「ある人は紹介で来た」と異なる経路があれば、複数経路として併記します。経路が大きく分かれる場合は、ペルソナ別にジャーニーを 2 枚作る判断もありです。
Step 4: 各マスを 1〜2 行で記述する
20〜25 マスを 1〜2 行で記述します。長文は避け、ポイントだけ残します。例:
- 認知 × 接点: SNS 広告・知人の紹介・業界紙の記事
- 認知 × 感情: 「マーケが進まない不安」「何かを変えたい焦り」
- 検討 × 課題: 「複数社の見積もりが揃わない」「社内に説明しづらい」
Step 5: 各接点の改善打ち手を 1 つずつ書き出す
最後に、各接点で「何を改善するか」を 1 つずつ書き出します。これがジャーニーマップから施策に繋げる作業です。マップを描いて終わりではなく、ここまで進めて初めて、ジャーニーが事業に貢献する状態になります。
例:
- 認知 × SNS 広告: 訴求軸を「マーケが進まない不安」に合わせて書き直す
- 検討 × 比較段階: 比較表を LP に追加、競合との違いを明示する
- 購入 × 社内説明: 社内提案資料テンプレートを提供する
- 継続 × 月次レビュー: 顧客向けダッシュボードを用意する
カスタマージャーニーの例(BtoB マーケ支援サービス)
| フェーズ | 認知 | 興味 | 検討 | 購入 | 継続・推奨 |
|---|---|---|---|---|---|
| 行動 | SNS で記事を読む | サイトを訪問・資料DL | 競合 3 社を比較 | 商談・契約 | サービス利用 |
| 感情 | マーケが進まない焦り | 「これかも」期待 | 失敗したくない不安 | 期待と不安半々 | 効果を実感 |
| 接点 | SNS 広告・業界紙 | LP・サービスページ | 商談・比較表 | 契約書・キックオフ | 月次レビュー |
| 課題 | 何が問題か分からない | 具体的に何が解決するか | 価格と効果のバランス | 社内に説明できるか | 期待通りの成果か |
この表をベースに、各マスの改善打ち手を整理していきます。「離脱率の高い接点」「不安が膨らみやすいフェーズ」を起点に、優先順位を決めます。
カスタマージャーニーから施策に繋げる手順
1. 「離脱が多い接点」を特定する
GA4 のファネル分析・問合せフォームの離脱率・商談化率を見て、ジャーニー上で「離脱が多い接点」を特定します。
2. その接点の「感情・課題」を再確認する
特定した接点で、顧客が何を感じ、何で困っているかをジャーニーマップで再確認します。数字とジャーニーを行き来する習慣が、深い改善判断に繋がります。
3. 課題を解消する打ち手を 1 つ決める
接点ごとの「課題」に対して、解消する打ち手を 1 つに絞ります。複数打ち出すと焦点がぼやけます。1 接点・1 打ち手・90 日、を基本ペースとしてください。
4. 90 日サイクルで実装と検証
打ち手を 90 日サイクルで実装し、効果を検証します。改善が見えた接点から、次の接点へ進みます。ジャーニー全体を一気に改善するのは無理です。1 つの接点で勝つ感覚を掴んでから、次の接点に進む方が、確実に積み上がります。
カスタマージャーニー活用のよくある失敗
失敗 1: マップを 1 度作って更新しない
ジャーニーは時間とともに変わります。商材・市場・競合が変われば、顧客の行動も変わります。半年〜1 年に 1 度、ジャーニーを更新してください。一度作って棚に置くと、生きた設計ではなく死んだ書類になります。
失敗 2: 複数ペルソナで同じマップを使う
顧客層が複数ある場合、ジャーニーも別物になります。1 つのマップで全顧客を表現しようとすると、ぼやけます。ペルソナごとに別マップを作るのが原則です。
失敗 3: 経営者・マーケ・営業で別のマップを持っている
社内の各部門が別々にジャーニーを描いていると、施策の整合性が取れません。社内で 1 枚のマップに統一する仕組みが必要です。
失敗 4: 既存顧客ヒアリングを省略する
事業者の想像だけで描いたマップは、必ず現実とズレます。最低 3 人、できれば 5 人にヒアリングしてから描いてください。ヒアリングしないジャーニーは、ほぼ確実に施策の精度を下げます。
テマヒマ/平岡の視点
カスタマージャーニーは、マーケティングの基礎ツールとして広く知られていますが、現場で本当に活用している中小企業は少数です。
LP100本以上を扱ってきた経験から強く感じるのは、「ジャーニーを実物に降ろせるか」が、活用度合いを分けるということです。マップを描いて満足する事業者と、各接点の打ち手を毎月の会議で議論する事業者では、半年後の数字が大きく違います。
ジャーニーマップは、「現状を可視化する道具」と「施策の優先順位を決める道具」の 2 つの役割を持っています。前者だけで終わると、絵に描いた餅です。後者に繋げて初めて、ジャーニーが事業に貢献します。両方の役割を意識して、作成と運用のセットで設計してください。
「迷わせない」の原則は、ジャーニーマップにも効きます。20 マスすべてに同じ重みを置くのではなく、「最も離脱が多い 1〜2 接点に集中する」のが、改善の現実解です。全部を同時に改善しようとすると、リソースが分散して何も動きません。
「データと仮説の往復」は、ジャーニーマップを起点に回せます。マップで仮説を立て、データで検証し、マップを更新する。このリズムが、ジャーニーを「生きた設計」に保ちます。
最後に 1 つ。カスタマージャーニーは、社内全員の共通言語にもなります。経営者・マーケ・営業・サポートが同じマップを見ていれば、施策の議論が揃います。「うちのお客様は、認知段階でこの不安を抱えている」と全員が言える状態を作るのが、ジャーニー設計の最終ゴールです。
そして、カスタマージャーニーの作成は、社内向けのワークショップとしても効果があります。経営者・マーケ・営業・サポートが集まり、半日かけてジャーニーを一緒に描く。各部門の見えている顧客像が違うことに気づき、議論を通じて共通理解を形成する。マップ自体の価値以上に、作成プロセスでの気づきが大きい、というのが現場での実感です。
ジャーニーマップは、顧客の頭の中を再現する作業でもあります。事業者目線では見落としがちな「お客様の不安」「お客様が他社と比較するタイミング」「お客様が社内で説明する苦労」が、マップを描くことで浮かび上がります。この発見が、施策の質を底上げします。
もう 1 点、デジタルとアナログの接点を区別せず、すべての接点をマップに含めることが重要です。広告・LP・SNS のような Web 接点だけでなく、電話・名刺交換・展示会・紹介・口コミも含めます。Web に偏ったジャーニーマップは、現実の顧客行動を捉えきれません。お客様は、デジタル・アナログを横断しながら検討を進めます。
よくある質問(FAQ)
| 質問 | 回答 |
|---|---|
| Q1. カスタマージャーニーは中小企業でも作るべきですか? | はい。むしろ中小企業ほどリソースが限られているので、優先順位を決める道具として有効です。すべての接点に手を出せない中小企業こそ、ジャーニーで重み付けが必要です。 |
| Q2. ジャーニーマップの作成にかかる時間は? | ペルソナ設定+ヒアリング+マップ作成で、合計 1〜2 週間が現実的です。完璧を目指さず、初版を作って運用しながら磨いていく形で進めます。 |
| Q3. ジャーニーマップは紙・スプレッドシート・専用ツールのどれで作るべき? | 最初はホワイトボードまたはスプレッドシートで十分です。Miro や FigJam のようなオンラインホワイトボードも使いやすい。専用ツールは、運用が定着してから検討してください。 |
| Q4. BtoC 商材でもジャーニーは作るべき? | はい。BtoB より検討期間が短い分、フェーズ数を 3〜4 に圧縮するのが現実的です。 |
| Q5. ジャーニーマップを社内共有する場所は? | 社内 Wiki・Notion・スプレッドシートなど、誰でもアクセスできる場所に置いてください。月次会議・LP制作キックオフ・営業会議で頻繁に参照する状態が理想です。 |
| Q6. ジャーニーの更新頻度は? | 半年〜1 年に 1 度の見直しが目安です。市場・商材・競合が大きく変わった時は、その都度更新します。 |
| Q7. 経営者がジャーニー作成に関わるべきですか? | はい。少なくともペルソナ設定・各フェーズの感情整理には、経営者が関わる方が良い。現場任せにすると、現場目線に偏ったジャーニーになります。経営者が参加することで、施策と経営判断が連動しやすくなります。 |
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